2003年春、仙台市近郊の民家の竹やぶで、
親とはぐれたニホンカモシカの赤ちゃんが保護されました。
このシカを引き取り、“ロッキー”と名づけたのが、
この本の著者である武田修さんです。
『ロッキーへの手紙』には、
宮城県の自然保護員である武田さんがロッキーを育て、
山に帰すまでの2年間の出来事が綴られています。
試行錯誤の末にようやくミルクを飲ませたり、
散歩させたり、走り方を教えたり……。
ロッキーと武田さんとの日々は微笑ましく、幸福感に満ちています。
しかし、保護した動物の傷が癒え、力もついたと判断したら、
もとの自然に帰すのが自然保護員の役割。
後ろを歩いていたのが、いつの間にか横を歩くようになり、
やがて前を行くようになり……。
日ごとに成長してゆくロッキーを前に、
武田さんは次第に、「自然からの預かり物」である
ロッキーとの別れを意識するようになります。
最終章、「ロッキーへ」ではじまる武田さんの手紙は感動的です。
「新しい道は君が選びなさい、思うがまま生きなさい」
まるで巣立ち行くわが子への、はなむけの言葉のように。
実はこの本を読んで初めて、
宮城県には県立の鳥獣保護センターがないことを知りました。
武田さんは、家業である内装工事業を営むかたわら、
傷ついた野生の鳥や動物たちの保護活動を行っていたのです。
場所は仕事で使う資材置き場。県からの手当ては餌代にもなりません。
けれど、武田さんはあくまで前向き。淡々と日々を綴ります。
「命を尊び、命を大切にする文化を育てたい」という武田さんの、
深い想いにふれることができる一冊です。
※2006年、武田さんはついにNPO法人「みやぎ野生動物保護センター」を立ち上げました。センターのイメージキャラクターは、ニホンカモシカ。民間による保護センター設立のきっかけとなったロッキーです。