ルーマ・ゴッデンは、『人形の家』『ふしぎなお人形』
などの童話で知られるイギリス人女性作家です。
無駄のないストーリーと文章の美しさ、
人間に向けられるまなざしの温かさがゴッデンの身上。
今回ご紹介する『バレエダンサー』は、
そんなゴッデンが、80歳を超えて書き上げた名作です。
主人公は、デューン。ロンドン郊外で八百屋を営む両親のもと、
六人兄弟の末っ子として生まれた、みそっかすの少年です。
デューンには、母親が溺愛するクリスタルという姉がいます。
物語は、6歳のデューンがクリスタルのバレエ教室に、
“くつ持ち”として連れて行かれたことから始まります。
ひとめでバレエのとりこになったデューンは、
教室の廊下で、レッスンの真似事をはじめ、
バレエ教室の老ピアニストや助手、先生を驚かせます。
――デューンには、天賦の才能があったのです。
しかし、船出は決して順風満帆ではありませんでした。
姉の意地悪、父親の猛反対、兄弟たちの無理解……。
幾多の困難を乗り越えながら、
デューンはやがてクリスタルと同じ王立バレエ学校に入学し、
バレエダンサーとしての才能を開花させます。
……と書くと、華やかなバレエの世界を舞台にした、
ダンサー志望の少年少女の夢と挫折の物語のようですが、
それだけに終わらせないのがゴッデンのすごいところ。
才能に恵まれ、親の期待を一身に背負い、
自分で選ぶまでもなくダンサーの道を歩みはじめたクリスタルと、
姉以上の才能を持ちながら、親には反対され、兄弟にはいじめられ、
それでも「自分の道は自分で切り開かねば」と、歩きはじめたデューン。
姉と弟、立場の違う二人の、それぞれの苦しみや悩みに加え、
人間の強さ、弱さ、愛情、嫉妬、おろかさ、かしこさなど、
等身大の人間像をしっかりと描くことで、
大人も子どもも楽しめる、深みのあるドラマに仕上げています。
とりわけ、誰にも愛してもらえなかった孤独なデューンが、
自ら道を選ぶことで自分の居場所を獲得していく姿や、
意地悪で傲慢だった姉のクリスタルが、
挫折と傷心を味わい、ダンサーとして成長する姿は感動的です。
ちなみに、この本の原題は『木曜日の子どもたち/Thursday’s Children』。
これは、マザーグースに収録されている歌の一節、
「木曜日の子どもの道は遠く……」からとられているのだとか。
長く険しい芸術の道に身を投じたデューンとクリスタルの姉弟が、
様々な葛藤を経て、同じ道を歩き出すラストシーンが心に残ります。
――季節は、間もなく“芸術の秋”。
今まさに「遠い道」の途中にいる方はもちろん、
これから道を探そうとしている方にもおすすめの作品です。
※ルーマ・ゴッデンにはこのほか、バレエを題材にした「トウシューズ」という作品もあります。興味がある方はぜひ!