久方の 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらん(紀友則)
“のどか”という言葉が、よく似合う季節になりました。
今回ご紹介する益田ミリさんの4コマ漫画『すーちゃん』と、
その続編の『結婚しなくていいですか。』を
初めて目にしたときの第一印象は、まさにそれ。
ぽわんとした表紙のイメージから、
「のどかそうな本だなぁ」という印象を受けたのですが、
結果は……半分あたりで、半分はずれ!
絵柄はほのぼのとしていますが、描かれているのは、
揺れる心を抱きながら、毎日をひたむきに生きる女性の日常。
ささやかだけれど、心にしみるエピソードがたっぷりつまっています。
まずは主人公・すーちゃんをご紹介しましょう。
三十代半ばで、独身で一人暮らし。
カフェに勤めるすーちゃんの胸の内は、こんな感じです。
お金も美ぼうも男もない。
でも職場じゃ「さん」づけされる年齢。
自分が好きじゃない……かもしれない。
今のままの自分では嫌だけど、なりたい自分もわからないすーちゃん。
すーちゃんは、日記を書いて頭の中を整理します。
変わりたい。私は今の自分を変えたいと思っている。
どんなふうにかはわからないけれど、
もう少しいい人にならなければいけないような気がする。
今よりいい私になるには、一体どうすればいいんだろう?
恋愛攻略本を買ったり、心理学を勉強したり……。
あれこれやってみた結果、すーちゃんはやがて、
「いろんなあたしを増やせばいいかな〜」と思うようになり、
こんなつぶやきにたどり着きます。
違う誰かのようになりたいと思わないのは いい気分だ
日記もつづかなかったけど フグもたべたことないけど
あたしでいい
あたしでいいってゆうか あたしも悪くない感じ
ありのままの自分を受け入れたすーちゃんに、思わず拍手!
しかし、物語はこれで終わりではありません。
人生はまだまだ続くのです。
「自分探し」を卒業し、カフェの店長になった、
“夫なし、男なし、三十路半ば”のすーちゃんは、また考えはじめます。
ときどき不安になる
このまま歳をとっていくと どうなるんだろうって
結婚もせず 子供も持たず おばあさんになったら
あたしゃ大丈夫なわけ?
そんなすーちゃんが、ヨガを習うか、
そのお金を老後の貯えにするか、悩むシーンは秀逸です。
老後が、遠い未来が 今、ここにいるあたしをきゅうくつにしてる
そう気づいたすーちゃんは、
「老後め!!」とつぶやいてヨガを習うことにするのです(大拍手!)。
将来の不安はあるけれど
遠い未来のために 今、何をしたらいいのか
よく、わからないけれど
未来のためだけに 今を決めすぎることもない
すーちゃんのつぶやきは、
同じ不安を抱く、すべての女性たちを勇気づけてくれます。
薄水色の春の空のように、切なくて美しい本です。