白地に、赤い振袖を着たあどけない表情の女の子。
その横に、隆々と伸びる一株の菜の花……。
ひと目見るなり、表紙の美しさに目が釘付けになりました。
ひさびさに“表紙買い”してしまった本です。
――結果は、大正解!
“涙のち爽快 人情時代小説”とキャッチフレーズにある通り、
読後感のよさはピカいちでした。
舞台は、江戸時代末期の江戸・深川。
主人公は、房州勝山の菜種農家に生まれた娘・二三(ふみ)。
物語は、子煩悩で働き者の父・亮助と、
てんぷらを揚げるのが得意な母・よしに育てられた二三が、
五歳で家族と別れ、油問屋・勝山屋の幼女にゆくところから始まります。
――房州勝山の菜種農家の末娘から、江戸深川の大店のお嬢様へ。
……と書くと、単なるシンデレラストーリーのようですが、
もちろん、そう簡単にはいくわけがありません。
二三の人生には、数々のドラマが待ち受けていたのです。
何より魅力的なのは、けなげで賢い二三の性格。
勝山屋は裕福で、養父母の新兵衛とみふくがやさしいとは言え、
わずか五歳で見ず知らずの土地につれて来られたのですから、
心細くないわけがありません。
しかし二三は、幼いながらも細やかな気遣いのできる子どもでした。
孤独を胸の奥深くに押し込め、誰にも涙をみせないと決めて、
少しずつ江戸での暮らしに馴染んでゆきます。
そんな二三が養父母のために、
てんぷらを揚げるシーンは圧巻です。
実母・よし仕込みのてんぷらの味は養父母をうならせ、
これを機に、二三は元料理人・加治郎について
本格的な料理の手ほどきを受けることになります。
そして、この経験がのちに二三の窮地を救うことになるのですが、
それは読んでのお楽しみ!
最終章、波乱万丈の人生を経て三十路を迎えた二三が、
自らが育てた菜種畑で黄緑色の大海原を前に、
あたしには、菜の花があるもんっ。
と、子どものようにつぶやく姿は印象的。
二三の菜の花のような明るさ、たくましさが伝わってきます。
いちめんの菜の花畑のまんなかで、
やさしい春風に吹かれているような、
心地よさが味わえる一冊です。