Book Cafe
Book Cafeのトップ > 読本屋 ひより堂の本棚
読本屋ひより堂おすすめの一冊

 
おすすめの1冊
『赤めだか』
立川談春著

宮藤官九郎さん脚本のドラマ『タイガー&ドラゴン』に、
映画にもなった佐藤多佳子さんの名作『しゃべれども しゃべれども』、
さらにはNHKの朝の連ドラ『ちりとてちん』などなど、
ここ数年の落語人気の高まりには、目を見張るものがあります。
かく言う私も、これらの作品と最近落語に凝りだした家人の影響で、
いっぱしの落語好きになったクチ。
と言っても、好きな演目がいくつかあるぐらいのレベルで、
落語家の名前や系譜はほとんど知りません。
立川談春さんという名前も、この本に出会って初めて知りました。

というわけで、まずは談春さんのプロフィールから。
昭和41年生まれ、17歳で立川談志に入門し、平成9年に真打昇進。
その後「林家彦六賞」「国立演芸場花形演芸会大賞」などを
多数受賞している実力派――です。

今回ご紹介する『赤めだか』は、
そんな談春さんが高校を辞めて談志師匠に弟子入りし、
二ツ目を経て真打ちになるまでの日々を綴った自伝的エッセイです。
と同時に、天才の名を欲しいままにする師匠・立川談志の人物像を伝える、
ノンフィクション(虚実取り混ぜてあるとしても)でもあります。

よく「事実は小説より奇なり」といいますが、
談春さんの修行時代のエピソードは、まさに「奇なり」の連続。
落語家の修行は、師匠の身のまわりの世話から始まります。
が、何せ師匠が天才ですから一筋縄ではいきません。

「二階のベランダ側の窓の桟が汚れている、きれいにしろ。葉書出しとけ。   
スーパーで牛乳買ってこい。庭のつつじの花がしぼんで汚ねェ、むしっちま
え。留守の間に隣の家に宅急便が届いている、もらってこい。枕カバー替え 
とけ。事務所に電話して、この間の仕事のギャラ確認しとけ。シャワーの出
が良くない上にお湯がぬるい。原因を調べて直せ。どうしてもお前たちで 
直せないなら職人を呼ぶことを許すが、金は使うな。物置に……」
という具合。

立て続けに言われた弟子たちは、当然パニックになります。
「修行とは矛盾に耐えることである」という師匠の教えのもと、
談春さんは兄弟弟子たちとともに、右往左往するのです。

胸に残るのは、談春さんが心にとめた師匠・談志の言葉の数々。
「落語とは人間の業の肯定である」
「よく芸は盗むものだと云うがあれは嘘だ。
  盗む方にもキャリアが必要なんだ」
「あのなぁ、師匠なんてものは、誉めてやるぐらいしか
弟子にしてやれることはないのかもしれん、と思うことがあるんだ」
立川談志という落語家の、あふれる才気とやさしさが伝わってきます。

後半、真打昇進で弟弟子・志らくに先を越された談春さんが、
弟弟子を先に真打にした師匠を見返してやりたい一心で、
真打昇進をかけた落語会を開く姿は壮絶です。
「師弟関係とは恋愛にたとえるのが一番分かりやすい」
という一文がありますが、まさにその通り。
師匠をあっと言わせたい、ただそれだけのために策を練り、芸を磨く、
談春さんのひたむきな姿に心を揺さぶられます。

――笑わせて、笑わせて、ホロリとさせる。
名人が語る人情噺のように、
感動がじわじわと心に沁みてくる一冊です。

■『赤めだか』立川談春著
■扶桑社 ■各1,400円(税込)
 
このカフェの本棚
『ひゃくはち』早見和真著
『DIVE!! 1・2・3・4』森絵都著
『ハリー・ポッターと死の秘宝 上・下』J.K.ローリング作・松岡佑子訳
『幻狼神異記 1・2・3』横山充男著
『錦』宮尾登美子著
『赤めだか』立川談春著
『菜種晴れ』山本一力著
『すーちゃん』『結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日』益田ミリ著
『猫の帰還』ロバート・ウェストール著 坂崎麻子訳
『そのぬくもりはきえない』岩瀬成子著
『仏果を得ず』三浦しをん著
『大阪ハムレット@A』森下裕美著
『ハートランド物語1〜5』ローレン・ブルック著
『ワタシは最高にツイている』小林聡美著
『クロニクル 千古の闇1・2・3』ミシェル・ペイヴァー著
『バレエダンサー上・下』ルーマ・ゴッデン著
『天山の巫女ソニン 一 黄金の燕』
『天山の巫女ソニン 二 海の孔雀』菅野雪虫著
『ぼくらは小さな逃亡者』アレックス・シアラー
『コンビニたそがれ堂〜街かどの魔法の時間〜』村山早紀
『風が強く吹いている』三浦しをん
『バッテリー』あさのあつこ
『獣の奏者I闘蛇篇』
『獣の奏者II王獣篇』上橋菜穂子
『ロッキーへの手紙』武田修
『きみの友だち』重松清
『ロズウェルなんか知らない』篠田節子
『シンジケート』穂村弘
『一瞬の風になれ 1 イチニツイテ』佐藤多佳子
『風神秘抄』荻原規子
▲ページの先頭へ