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好きなことを仕事にするには、大きなリスクを伴うことがある。勤務先で責任のあるポジションをまかされていれば、なおのこと。経済的な安定も、社会的な信用もなくしての出発となる。それでも、あえてまったく新しい道に踏み出した人がいる。大澤史佳さんが、なぜその決断をしたのか、大澤さんにとって働くこととは……?

バイトをしていた学生時代から、社員に間違われていたという大澤史佳さん。そのまま請われてセレクトショップ「SHIPS」に入社し、仙台店の責任者であるマネージャーまで務めた。その後、別のセレクトショップのレディス部門の立ち上げをまかされ、店長として忙しく働く毎日。大澤さんは、つねに前線を走ってきた。
「洋服が好きで、のめりこんでしまって。どれだけお客様に満足してもらえるか、どれだけ世の中にセンスのいいものを提供できるか、会社に貢献できているかと考えて。でも、ふり返ったとき、自分がしたいことを差し置いて突っ走っているのに気づいたんです。このまま走ろうと思えば、走れるかもしれない。けれど、自分をいたわる生活があってもいいなと思って」
アロマに出会ったのも、仕事に追われて自分を見失いそうになっていたときだった。体調に合わせて調合してもらったオイルと心のこもったマッサージに心がほぐれ、別人のような気持ちになれた。それから、仕事をしながらアロマを学びはじめた。
資格にとらわれたくはなかったけれど、めざすことで学び、学ぶことで生きるうえで必要なことに気づかされた。“健全なspirit、mindは健全なBODYに宿る”と実感してから、食への関心も高まった。

アロマを学んでいると言うと、友人から体調についてアドバイスを求められることが多くなった。それに応えると、喜ばれているのがダイレクトに伝わってくる。洋服の仕事も喜んでもらえるけれど、喜ばれる度合いがだんぜん違っていた。
「自分もそうだったんですけど、眠っているはずなのに眠りが足りてない気がしたり、忙しいとコンビニのお弁当が続いたり、おフロに入らずシャワーで済ませたり。仕事の達成感でアドレナリンが出て、満足してしまって。休まない習慣ができているから、本当の疲れを忘れているんです」
自分の疲れと、周りの女性たちの疲れが重なってみえた。あたりまえの生活、普通でいることが一番いいことなのに、これでは生きているだけで意味がない。少しずつ、美容や衛生用品を手づくりすることが多くなった。髪の毛には蜜ろうクリーム。化粧水はフローラルウォーターとグリセリンでつくる。歯磨きもエアフレッシュナーもつくる。
友人たちからも新しい道を勧められるようになった。

「もっと人に喜んでもらい、リラックスしてもらいたい」と店長の職を辞め、新しくアロマと食のレッスンをはじめることにした。
レッスン初日までの準備といえば、頭の中でダンドリを組むこと。繰りかえし考えているうちに、不安がしだいに大きくなっていった。蜜ろうクリームをスムーズにつくれるかな、野菜料理をその場でちゃんとつくって出せるかな。不安でしようがなかった。オープン前日、吐き気までしてきた。今まで通り仕事をしていたら、順調にお金が入って、おしゃれができたのに。そう思いはじめたら、内臓が出てきそうなくらい不安と緊張に襲われた。いたたまれず相談した友人から返ってきたのが、ちょっと厳しいけれど、あたたかい言葉。
「どうして、この仕事をやろうと思ったの? 来てくれた人に喜んでもらいたい、健康な毎日を過ごしてもらいたいと思ったからでしょ。それを絶対に忘れちゃいけない。そこだけ見失わなければ、思うようにいかないことがあっても大丈夫!」

そうだった。大事なのは、みんなに楽しんでもらうこと。レッスンの空気と会話で、どれだけ心地よくなってもらえるかだった。いつもそのことを心にとめておくように毎朝、自分で書いた“みんなが楽しく癒される時間。みんなの喜ぶ顔が見れる空間”という字を見る。
レッスンは順調に進んでいる。香りを通して、はじめて会った生徒同士もすぐ仲良しに。知識を、すぐ生活に取り入れる人も多い。口コミで生徒は増え、山形や福島の人もいて、スタート2カ月で30名を超えた。その人たちもまた、かつての大澤さんと同じように多忙な人。
「忙しい方のほうがリラックスを求めているんです。心を豊かにするために習いはじめるのに、行かなきゃと思ったらプレッシャーになるでしょ。だから、忙しくて来られないことがあっても、いいんです。いつ来ても、気持ちよく、楽しかったなと思っていただければ」
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