
会社の雰囲気は、アットホーム。醸造担当であっても、忙しくなれば瓶詰めや発送作業を手伝い、発送作業を担当している先輩からも「今なに造ってるの?」と気軽に声がかかる。
「もっと隔たりがあるのかと思ったら、冗談を言って笑いあって、何でも聞いてもらえる雰囲気なんです」
そこから、アイデアも生まれてくる。
「こんなの造ったらおもしろいよね」
「こんなの造ってみたの、おいしいでしょ」
それでも、星さんがアイデアにたどり着くまでは、まだまだ。上司のワタルさんから「発想がカタイなぁ」と言われることもある。
「ワタルさんは、アイデアをとにかくいっぱい出してくるんです。できないだろうと思うような素材でも、次はコレといった感じで。仙台の“杜の会”に行く車の中でも、これを造ってみて、と。“杜の会”に行けば、産地の方や地域の方からもアイデアが出てきます」
それを試作するのが、星さん。配分もワタルさんに相談するけれど、造っていて不安はある。「こんな感じで、よかったかな」と。

それが、急にホワイトデー向けの新商品の開発を、星さんが任されることになった。最初は醸造部門の3人のワイガヤからだった。
「バレンタインデー向けにはカカオ風味の黒ビール『ショコラスタウト』があるから、ホワイトデー向けにキャラメル風味は?」という先輩醸造士のタカノリさん。
ワタルさんからも「黒ビールの種類ばかり増えているから、今回は、黒ビールを使わずにいこう。香料も使わないで」と方向が示された。
そのふたつの条件をクリアするために、とにかく試した。
本物のキャラメルを入れると沈澱して商品にならない。キャラメルの粉末やソースを、いろいろな種類のビールと組み合わせ、酵母を入れて発酵させても、乳製品くさくなっておいしくない。甘いものを入れると、ビールの酸味が際立ってしまう。
「これでいいのかと迷いつつ、造って、失敗して、次は何を使おう、という感じでした」
キャラメル風味のものが輸入雑貨店で売っていると聞けば、すぐ買ってきて入れてみた。香料が入っていて最終的には使えないものでも、まず完成形の味をイメージするために試してみた。
キャラメル風味を出すために、業者の方にも相談。キャラメルシロップ、キャラメルシュガー、バニラビーンズなど、素材が届いたら、その日に試作してみる。
醸造する楽しさはあっても、ひとりに任されたプレッシャーもある。先輩のタカノリさんの時間があるときは、一緒に味をみてもらった。
ようやく納得のいくものが出来あがったのは、2008年に入ってから。
レッドエールをベースに、キャメルモルトを使ったすっきりした飲み口の<キャラメルエール>に仕上がった。

大学の頃から醸造に関わってきたけれど、働きはじめて変わったのは自分の造ったビールを多くの人に味わってもらえること。
友達や兄ふたりからも「飲んでみたい。造ったのを送ってよ」と言われ、“杜の会”の参加者の方々の反応を見て、感想を聞けるのもうれしい。
働く姿勢も少しずつ変わってきた。最初は、自分にできる、できないが判断基準だった。人前で話すのが苦手で、“杜の会”での発表も、できれば遠慮したいほど。けれど、苦手なことも、やってみようと思うようになった。いまでは、「できることが増えるのが楽しい」と少しずつ自信になっている。

東京に出張すれば、取引先のお店で全国の地ビールを飲み、地元で開催される『全国地ビールフェスティバルin一関』でも味をみる。
仕事帰りには、週1回は書店でお菓子やファッション雑誌などを見る。色や味、料理の盛り付け方まで、なにげなく立ち読みする自分がいる。
この3月中には酒税免許を取得する予定。そんな星さんの夢は、自分のビールタンクを持つこと。
「今は30リットルで小さいけど、1400〜1600リットルの大きいタンクに自分のビールを造ってみたい。そして、結婚しても働き続ける人でありたいと思っています」
具体的な夢に、一歩、一歩、近づこうとしている。
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