|
一級建築士といえば、それなりの年齢に達した渋めの男性をイメージしてしまう。けれど、今回ご登場いただく渡邉尚美さんは、入社3年で一級を取得した。若きエリートは、お会いしてみると、小柄で、おっとり、おとなしい印象さえ受ける。その渡邉さんが、なぜ建築の道に進み、どのような建築士をめざしているのかをうかがった。

家族にも親戚にも、建築関係にたずさわっている人はいない。それでも、大学で建築を学ぼうと思った。そのきっかけは、渡邉さんの小学生の頃にまでさかのぼる。
家を建てることになったとき、担当として打ち合わせに来たのが、女性の建築士だった。そのときの印象が、はっきり残っている。
「すごく頭がよさそうで、いろいろなカタログで説明してくださるんです。家族でクロスを選び、子ども部屋の壁紙も自分でこれがいいと選ばせてもらいました」
その女性建築士へのかすかな憧れは、ずっと頭の片隅に残り、大学進学のときに、建築を専門にすることを決めた。

学んだことを生かしたいと、入社した企業も東北に拠点を置く総合建設会社。最初の4年間は、現場管理を担当した。
現場管理とは、建設現場に常駐し、建物が完成するまで業務をとどこおりなく進めるのが仕事。現場にいるのは、ほとんどが男性で、年上ばかりだった。
「大工さん、左官屋さん、とびさん、内装屋さん、石屋さん、タイル屋さん・・・。こんなにいろいろな仕事があるんだ」と初めて気づくことも多かった。そして、そこに流れる空気もなんとなく感じた。
「みんなから頼りないと思われている空気はありました。最初の現場は、事務所の新築工事で1年ぐらいつきっきりでしたが、そのとき女性の先輩がいて、すごく心強かったのを覚えています」
先輩は、現場をチェックし、それぞれの専門職のトップに指示を出し、自分の判断で現場を動かしていた。そばで見ていた渡邉さんにも、現場の人からの信頼を得ているのが感じられた。

現場に通いながら、一級建築士をめざすことになったのは、社風によるところも大きい。一級の試験そのものを受けるには、2年の実務経験がいる。社内でも、働きながら夜は学校に通っている先輩も多かった。
「一級建築士に受かると、学校の費用の半分を会社が負担してくれるので、会社ではみなさん仕事をしながら学校に通うやり方で。私も試験が受けられる半年前ぐらいから通い始めました」
上司の応援もありがたかった。一級の資格を持つ上司が、図面の添削してくれることもあった。現場に出て学校に行けないときは、振り替えて学校に行けるように取り計らってくれた。
試験が近づくにつれて、渡邉さんも気合いが入ってくる。会社から午後8時か9時に帰ってくると勉強。わずかな時間も勉強にあてた。
「せっぱつまっていたんです。大学受験のときは、のんびりしていたので、そのときよりは勉強しました」
そして、みごと一級を取得した。
「資格をとっても、状況はあまり変わりません」と渡邉さんはいうけれど、キャリアを積み、現場に入れば渡邉さんを中心に専門職のトップ同士の打ち合わせが行われる。
大きな現場になると、100人を超えることもある。全員が足並みそろえて動けるように、「進行状況はこう、明日はこういう作業が発生するから邪魔なものはよけて」といったやりとりがなされる。
人数が多くなれば、異なる意見も出てくる。そんなとき、渡邉さんはどのようにまとめていくのだろう。
「否定するのはよくないので、私はこう思うけど、という言い方をします。絶対にダメなときは、はっきり言わないといけませんが」
やんわりとした口調で、毅然とした言葉をそえる。

そんな毅然とした部分が出てきたのも、経験を積んできたから。以前の渡邉さんは、自分で判断ができなかった。
「どうしよう、どうしよう、と周りが見えなくなることもありました。今は、なんとかなる方法はないかと考え、自分でどうにもできない時は、あの人に相談しよう、と考えるようになりました。自分はこう思うけど、どうでしょう、と」
今も判断に迷うこともある。こうすればよかったと反省することも、たびたび。それでも、現場の人から渡邉さんに「どうしましょう」と聞かれるようになった。渡邉さんの細腕に力がついてきた。
|