
建築の本と並んで、渡邉さんの本棚に多いのが旅のガイドブック。「観光ガイドになってもよかった」というくらい旅行が好きで、学生の頃からヨーロッパやアメリカ、カナダ、上海、ベトナムなど、海外にも多くでかけてきた。
国内でも東北はもちろん、東京ミッドタウン、表参道ヒルズ、名古屋の豊田市美術館など、ここと思うところに出かけてゆく。
「お金と時間と相談しながらですが、どこに行っても自分の写真はあまり撮ってなくて、建物とか風景の写真がほとんどなんです。きれいなものを見ると、何かしらプラスになるので」
ギリシャのパルテノン神殿の荘厳さに感動したときも、どこから見ても絵になるイタリアの街並みに感激したときも、思わずシャッターを押す。心をとらえる建物、歴史や風土を感じさせる街並み、それらに繰り返しふれることで、渡邉さんの中に設計のベースとなるものが蓄積されていく。

世界的な建築家と呼ばれる人も、若いときにさまざまな建築物を見て歩いたと話に聞く。では、同じ建築の分野にいる渡邉さんにとって、気になる建築家とは誰だろう。
「安藤忠雄さんや槇文彦さん、最近気になるのは隈研吾さんです。“負ける建築”と言っておられるように、凝っているところはあっても、環境に合わせて主張しすぎず、建築がきれいなので」
幕張メッセなどを設計した槇文彦さん、隈研吾さんは宮城県登米町にある森舞台を設計し日本建築学会賞を受賞した人でもある。
隈さんの、周囲の環境にとけこむような建物、そして予算や立地などの諸条件を受け入れたうえで、自分らしい建物を生み出すところを学びたいと思う。というのも、「総合的なものの見方ができるのが、良い建築士」だと感じているから。
施主は安いほうがいいと考える。かといって、あまり安くすれば機能性が悪くなる。それをトータルに考え、ベストバランスを見つけださなければならない。
そのために、施主にわかりやすいように、専門用語をなるべく使わず、図面も実際の設計図よりわかりやすくしたものを作って理解をうながす。さらに、現場の施工のしやすさも考える。一級建築士は、調整役としての役割は意外に大きい。

建物が完成するまで、施主の要望にいかに沿わせるかに頭を悩ませ、細かい寸法を決め、図面をまとめる。苦労はあるけれど、形になったときのうれしさは、ひとしお。
仕事をしていて、建物の形が見えてきたとき、そして、引き渡してお客さまに喜んでもらえたとき、よく利用されているのを見たとき、うれしくなる。
施工で関わった大きな物件に、小学校の校舎がある。1年半ほど現場につめ、4階建ての校舎が完成した。その近くに住んでいた会社の同僚から「幼稚園に通っている娘から、『立派な小学校だね、お母さんの会社でつくっているんだ』と言われたの」と聞かされたとき、入学を待っている気持ちが伝わってきて、思わずほほえんだ。
旅館の設計監理を担当したときも、やりがいのある仕事になった。施工する途中で、お客さまから要望が出てくる。そんなとき、設計図とは違ってきても、法的に問題がなければ、要望に合わせて変えていく。一緒に造っていくところに、施工のおもしろさがある。
「何もないところに建物ができあがっていくのが楽しいんです」
一つひとつの経験を踏まえて、総合的な判断をし、お客さまにいい提案をしていきたいと思う。

今働いているところは、生まれ育った仙台。大学に進学するとき、ほかの地域へと考えたこともあったが、最終的には地元で進学した。就職するときも安心感から仙台に。
街なかにある会社には、家から歩いて通える距離。
「会社まで歩いて30分くらいです。街にも近いけど、広瀬川も近いから、歩ける範囲はだいたい歩きます」
広すぎず、狭すぎないバランスがいいのだとか。海外から国内まで、いろいろな街を見てきても、この街がいいと思う。そして、結婚して家族構成が変わっても、建築士として働き続けたいという思いは、ずっと変わることがない。
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